家に住みつく害虫の中でも、シロアリは特に厄介な存在として知られています。
誰にも気づかれることなく巣を作り、家屋に深刻なダメージを与えるシロアリは、まさに脅威そのものです。
ただ、漠然としたイメージがあるだけで本当の恐ろしさについてよくわかっていないという人も多いのではないでしょうか。

そこで、シロアリが家屋に住み着くと具体的にどのような被害が出るのかについて解説をしていきます。

目次

アリの仲間ではない!家屋に甚大な被害をもたらすシロアリの特徴

シロアリの存在自体は多くの人が知っていますが、実際に目にしたことのある人は少ないはずです。
彼らは木を主食にしているものの、その表面にはめったに姿を現さないからです。
そのため、シロアリについて勘違いをしている人も多いのではないでしょうか。
そもそも、シロアリはアリの仲間ではありません。
それは実際の姿を見れば一目瞭然でしょう。
アリの体はスリムで胸部と腹部の間が大きくくびれているという特徴があります。
それに対して、シロアリはくびれがなく寸胴です。
実は、シロアリはゴキブリ目シロアリ科に属するゴキブリの仲間なのです。

ただ、アリもシロアリも女王を中心として集団生活を営んでいる点は共通しています。
また、新しい女王は羽アリとなって飛び立ち、つがいとなった雄と共に地中で巣を作る点も同じです。
そして、その巣で生まれた働きアリは地中から穴を掘って家の中へと侵入してきます。
その際も家の木材などを食い破って進み、表には姿を現しません。
だから、住んでいる人もその存在に気付かないというわけです。

シロアリは目が退化しており、匂いでエサとなるものをかぎわけます。
特に、湿っていて腐り始めている木が大好物です。
かといって、乾燥してれば食べないかというとそんなことはありません。
それどころか、畳、新聞紙、衣類といった具合に、植物由来のものならなんでも食べてしまうところがシロアリの厄介な点です。
さらには、電線やコンクリートまで齧ってしまうため、思いがけないトラブルを引き起こす可能性も出てきます。

シロアリ被害

要注意なのは3種類!日本に生息するシロアリの種類と家屋におよぼす被害の特徴

シロアリは世界中に約3000種いるといわれ、日本には22種類が生息しています。
とはいっても、その中で家屋に大きな被害を与えているのは「ヤマトシロアリ」「イエシロアリ」「アメリカカンザイシロアリ」の3種類だけです。
そこで、実際に被害にあった際には3種類のうちのどのシロアリに侵入されたのかを特定することが大切になってきます。
なぜなら、種類によって想定される被害状況や対策の仕方が変わってくるからです。

まず、日本のシロアリの中で最もポピュラーな存在といえるのがヤマトシロアリです。
高山と酷寒地を除くすべての地域に生息しており、北海道以外のエリアで多くの被害を出しています。シロアリの中でも特に湿気を好む傾向があるため、建物の被害は床下に集中します。
ただし、結露や湿気の多い建築物の場合は天井まで被害がおよぶことも珍しくありません。
一つのコロニーに生息する個体数は2~3万匹程度で、比較的寒さに強いのが特徴です。
6度を超えると活動を始め、12度以上になると動きが活発になります。

それに対してイエシロアリは寒さに弱く、生息範囲は温暖な地域に限定されます。
その代わり、イエシロアリのもたらす被害はヤマトシロアリとは比べものにならないほど甚大です。
コロニーに生息する個体数は多いものでは100万匹以上に達します。
そのうえ、乾燥した場所であっても水を運んできて湿気を確保して住みやすい場所に変えていくので、必然的に被害は建物全体におよんでいくことになります。
活動範囲も広く、巣を中心に半径100メートルを超える場合があるほどです。
そうなると、巣のある家屋だけでなく、隣接する建物すべてに被害が波及する可能性が出てきます。

最後のアメリカカンザイシロアリはその名の通り、アメリカ原産のシロアリです。
木材と一緒に日本へやってきた外来種であり、日本のシロアリと比べて乾燥に強いというのが特徴です。
しかも、普通のシロアリは地中に巣を作りますが、この種は羽アリが屋内に侵入すると直接壁や床に巣を作ってしまいます。
巣が小さいので専門家でも発見しにくく、発見しても全滅させるのが困難と、なかなか厄介な存在です。
救いは被害の進行スピードが遅いという点で、早期発見さえすれば大きな被害には至らずにすみます。

火事よりも怖い?シロアリ被害の実態

シロアリが怖いといっても、実際に被害を受けることなどめったにないと思っている人もいるのではないでしょうか。
しかし、決してそんなことはありません。
侵入されても気が付かないのでそう思われているだけであり、現実には木造住宅の数十%は何らかのシロアリ被害を受けているという話もあるほどです。
しかも、シロアリによる年間被害総額は3800億円ともいわれています。
これは火災による年間被害額の2倍以上に相当します。

それでは、具体的にどのような箇所がよく被害を受けるのでしょうか。
まず、シロアリが地中から屋内に侵入する際には土台や床束、柱の下を食い荒らしながら内部へと侵入していきます。
それにより、家の強度はかなり弱まってしまいます。
ただ、シロアリの食害のみで家が傾くことはめったにありません。
その代わり、地震や台風が襲ってくると、普通なら十分に耐えられる程度のものでもあっさりと倒壊してしまう場合があるのです。

次に、床下から侵入したシロアリは床板を食べ、その上に置いてある畳やタンスも食い荒らしていきます。
いつの間にか、大事にしてあった高価なタンスをボロボロにされてしまったというような事態が起こりうるのです。
しかも、海外ではタンス預金の紙幣までもシロアリに食べられてしまったという例もあるほどです。
さらに、家主がシロアリの存在に気付かないままでいると、柱や壁を食べながら天井裏にある小屋組まで達してしまいます。
そうなると家全体がボロボロの状態となり、被害総額はかなりの金額に達します。

それでは、木造建築ではなく鉄骨や鉄筋コンクリートの建物なら安心かというとそういうわけではありません。
そうした建物であっても内部には木の部分もあるため、それに沿って建物の内部まで侵入してくるからです。
もっとも、建物の主要部分は鉄でできているので倒壊する危険はほぼないでしょう。
ただし、木造建築より内部構造が閉鎖的であるため、駆除が難しいという問題が出てきます。
その場合、駆除代や修復費用が木造建築よりも高くなってしまう可能性があります。

また、近代的な住宅において特に注意が必要なのが断熱材です。
発泡スチロール系の断熱材は柔らかくてシロアリが進みやすいので、すぐに食い荒らされてしまいます。
もちろん、断熱材には栄養は含まれていません。
ところが、シロアリは目が見えず、とりあえず前のものを齧って木材のあるところにたどり着こうとする習性があります。
そのために、たとえ木材以外の材質であっても被害にあう可能性があるというわけです。
実際、ケーブルや鉄板のような金属、コンクリートといったものまで被害にあったというケースが報告されています。

楽観はできない!今後のシロアリ被害の見通し

かつて日本の家屋はそのほとんどが木造でした。
それではさぞかしシロアリの被害も多かったのだろうと思われがちですが、実際には昔のほうが被害は少なかったといわれています。
なぜなら、昔の日本家屋は風通しがよく、湿気がこもりにくい構造になっていたからです。
通気に優れた畳、すっきりとした構造の天井裏、雨の侵入を防いでくれる庇といった存在が、シロアリを遠ざけてくれていたのです。
そのうえ、床下は見通しがよく、シロアリが侵入してもすぐに気が付くようになっていました。

一方、現代は基礎や床材にコンクリートやALCパネルなどを使用するようになっています。
そのことにより、高い耐震性や耐火性を持つようになったのはよかったのですが、それと引き換えに床下の通気性が著しく低下してしまったのです。
そのため、20世紀の終わりころからシロアリの被害は増加傾向にあり、今後も増加し続けると予想されています。

また、外来種であるアメリカカンザイシロアリの登場も大きな不安材料です。
前述の通り、この種は家屋から侵入して建物そのものを巣にしてしまいます。
そのため、従来の予防策が通用しなくなるのではないかと危惧されています。
確かに、ヤマトシロアリやイエシロアリに比べるとその被害は微々たるものです。
しかし、発見されにくい種であるため、被害は多いのに単に気が付いていないだけという可能性は否定できません。
以上のように、今後のシロアリ被害については決して楽観できない状況にあるのです。

楽観はできない

被害拡大防止のために!家に住み着いたシロアリの発見法

シロアリの被害を最小限にとどめるためには、何よりも早期発見が大切です。
まず、シロアリの侵入を知るうえで最もわかりやすいのが羽アリの存在です。
シロアリは4~7月にかけて新しい世代が新たな巣を作るために一斉に飛び立ち、その数は数千匹に達します。
したがって、家の敷地内で大量の羽アリを見つけた場合は家がシロアリ被害にあっている可能性が極めて高いといえます。
ただし、注意が必要なのは、同じ羽アリでもそれがクロアリかもしれないという点です。
クロアリは6~11月に巣立つので時期的にも重なります。
見分け方としては働きアリと同じで体にくびれがあるかどうかです。
くびれがあればクロアリです。
それに、シロアリの羽は前後が同じ大きさであるのに対して、クロアリは前羽のほうが大きいという特徴があります。
この2点を知っておけば見分けは簡単につくはずです。

次に、壁や柱を叩いてみて空洞音がすると、内部をシロアリに食われている可能性があります。
また、木枠や木製の敷居に触れた時にぷよぷよとしている場合も同様です。
ただ、いずれの方法も発見した時点ですでに被害がかなり拡大しているという問題があります。
そこで、早期発見をするためには定期的に床下に入って蟻道があるかどうかのチェックをすることをおすすめします。
蟻道とは、シロアリが家に侵入するために作ったトンネルです。
蟻道は建物と地面が接触している部分から始まり、束石や土台・基礎などを上に伝って割れ目などの侵入口まで続いています。
ひとつ気をつけなければならないのは、蟻道にもシロアリのものとクロアリのものがあるという点です。
両者の見分け方はその硬さにあります。
もろくて崩れやすいのがクロアリの蟻道、指で触ってみても非常に硬くてなかなか崩れなければシロアリが作ったものです。

いずれにしても、シロアリの存在を確認した場合はすぐに専門業者に相談して被害の拡大防止に努めるようにしましょう。

まとめ

床下の風通しが悪い現代の住宅は、シロアリに狙われやすい傾向にあります。
しかも、鉄骨や鉄筋コンクリートの建物であっても決して安心はできないのです。

実際、シロアリの被害総額は火事によるそれをはるかに超えています。
シロアリによる被害は決して他人ごとではないのです。

シロアリの習性やその結果もたらされる被害内容などをよく理解したうえで、大切な家屋を守れるようにしていきましょう。